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2014年10月

死んでも差別するのか

 1925(大正14)年4月18日、高松市内町の旅館「新松月」において第1回県水平社大会が開かれた。そのなかで、河田伊三郎は「氏子排斥」の問題を訴えた。1906(明治39)年、「神社合祀令」が出され、神社は町村一つにまとめられることとなり、小さな祠は整理された。それにともない、村民はその神社の氏子になることとなったが、その氏子入りをめぐって差別問題が起こっていたのである。河田の住む香川郡の部落は早くから氏子入りしていたことが、1879(明治12)年に愛媛県令(県知事のこと。当時香川県は愛媛県に属していた)に提出した「獅子遣奉納」の受書で確認できる。明治の初めに実施された「氏子調」のときに氏子となったのであろう。1907(明治40)年から部落内にある地神塔(土地の神をまつった五角形の石柱)などで獅子舞をはじめたものの、集落内に限られ、境内でつかうことはまわりの氏子から拒まれていた。河田はこれを問題としたのである。
そして、1928(昭和3)年、水平社、部落改善団体を問わず、部落住民が一致団結して神社に上がり、獅子舞を行った。その後、県令を会長とする融和団体である「讃岐昭和会」の調停もあり、1930(昭和5)年に区長会(村内の各地区の代表者の会)で、正式に境内での獅子舞奉納が認められることとなった。
部落住民が一致団結した背景には、もう一つの差別問題があった。明治政府は伝染病予防策として、散在する墓地を整理して共同墓地を建設していった。その使用をめぐって差別問題が起こっていたのである。河田をはじめとする19軒の水平社員は、「死んだ者に対しても差別があるのか」と1927(昭和2)年、取り巻く反対住民の間をぬって共同墓地での火葬と埋葬を強行した。その後、水平社員の世帯だけ共同墓地への埋葬が認められることとなったが、この状況を見て、神社への獅子舞奉納は部落住民すべてが団結したのである。このたたかいでは、県の役人が「あとで善処するから一時墓を取り除いてほしい」とすすめたことが問題となり、また、1926(大正15)年9月5日に観音寺町公会堂で開催された第2回四水大会では、墓地合併に反対した役人の辞職を求めることが決議されたりした。綾歌郡のある村の村長と村会議員にたいする総辞職勧告も出されたが、これも墓地に関する差別待遇によるものであった。
これらの糾弾闘争に、河田とともに仕事をなげうって取り組んだのが、県水平社初代委員長の高丸義男(以下「義男」)である。

初代委員長 高丸義男

義男は、第1回県水平社大会で司会をつとめている。1925(大正14)年11月の水平社演説会では、県水平社支部連合会長として演説した。翌年5月の第5回全水大会には、府県代議員会に出席し、大会では資格審査委員となり、第2回四水大会では、四水第2代執行委員長として開会の辞をのべ、経過報告を行った。さらに、1927(昭和2)年1月には個人的にソウルを訪れ、衡平社(朝鮮の被差別民である白丁の差別撤廃を目的とした団体)との共闘の道をさぐった。義男の要請により3月、衡平社の李東煥が京都、大阪、香川の水平社を訪問している。水平社と衡平社の連携の糸口をひらくなど、広い視野を持って精力的に活動したのである。
このころの全水は、階級闘争路線(革命を目ざすたたかい)が主流となっていた。県水平社も日本農民組合香川県連合会(以下「日農県連」)の幹部・前川正一らに無産政党(労働者階級のための合法的政党)設立に向けた提携を申し込まれ、労働組合、農民組合と労農水三角同盟を結んで共闘をめざしていた。義男も田中勇とともに無産政党である労農党の県支部の発足に参加した。
1927(昭和2)年5月9日の県水平社執行委員会では、普通選挙制度により初めて実施される県議会議員選挙、衆議院議員選挙での労農党支持の件などが協議される予定であった。ところが突然、義男は上田親賢とともに、共産主義化がいちじるしい労農党との共闘が、水平社運動を進める上で得策ではないと主張し、公正会という知事を会長、各町村の有識者を役員とした融和団体を作って運動を進めることを提案した。突然の方針変更に会は紛糾し、何一つ協議できなかった。席上、義男は県水平社執行委員長をやめる意思をあらわした。そして、8月20日の拡大執行委員会で、県水平社は労農党の支持と義男の水平社除名を決定した。その後、義男は協力を得るために四国各県を遊説して回ったが、公正会が組織された記録はない。
県議会議員選挙では、労農党は候補者7名のうち4名を当選させた。この4人は議会の席上、12月の第6回全水広島大会に県議会として祝電を送るよう提案したが、反対多数で否決された。そして間もなく、4人は、社会運動弾圧の中で辞職に追い込まれることとなる。
 
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