本文へ移動

2019年12月

人権マガジン
フィールドワーク型人権研修
連載②   「オムロン京都太陽」
企業の社会的責任と障害者雇用
 作業員一人ひとりの作業能力向上はどの企業もやっているが、ここでは業務改善を重視している。片手の人が頑張って作業スピードを上げても両手を使う人のスピードには追いつかない。そこで業務の仕方を改善する。工程を見直し新しい治具を作る。組み立て工程では作業工程を細かく分解する。例えば15と15の部品を組み立てる工程なら10・10・10の三つの組み立てに変えて障害者も可能にする。10が不可能なら新しい治具を開発して補う。車いす利用者は横に移動できないので棚をスライドするようにする。完成品の検査工程では検査済み商品を箱に入れ、箱がいっぱいになるとコンベアーに移し替える。電動車いす利用者がこの作業を担当する場合、従来は箱がいっぱいになると他の人を呼んでコンベアーに移し替えてもらっていた。ローラー付き台車を開発して検査終了製品が入った箱をそのままローラー上に滑らせるよう改善し、人を呼ばないでも作業が続けられるになった。知的障害者用には文字による説明から、絵や写真による説明に変え、作業手順も全て映像で分かるようにした。タイムカード押印機は「出勤」「退勤」それぞれボタンを選んで押していたが、現在は「出勤用」と「退勤用」に分け、さらに「出勤用」には働く人のマークを付け、「退勤用」には家のマークを付けて誰もがわかりやすいように改善するなど、様々な障害者が働きやすいようにしている。
 現在、ここでは重度障害者の雇用促進に取組んでいる。障害者雇用が進み始めたが、重度障害者の雇用はまだまだ。会社だから収益をあげなければ障害者雇用を継続できない。障害者雇用を続けるには収益を上げ続けなければならない。収益と障害者雇用の両立について、30年かけてノウハウを蓄積してきた。ノウハウを独占せず広く社会に提供し、他社でも障害者雇用が広がるように支援している。
 
企業理念 オムロン京都太陽
 1 社会貢献
 2 チャレンジ精神の発揮
 3 人間性の尊重
三つの使命 オムロン京都太陽
 1 重度障害者の雇用創出
 2 顧客の満足と収益の確保
 3 障害者雇用のノウハウを社会に提供
障害者雇用の基本 オムロン京都太陽
 1 適材適所と能力開発
 2 3エス運動(注)
 3 快適な職場環境
 
質 疑
Q 障害者にできない工程はあるの?
A ない。荷物を運ぶ作業は車いす利用者には無理だが知的障害者は可能、障害の種類によるが障害者に不可能な工程はない。
Q 色覚障害者などへの対応は?
A 色覚障害や弱視の人がいる。色分けなどで配慮している。全盲はいない。
Q 定年退職の年齢は?
A 65歳。B型事業所の重度障害者は職業訓練生なので、本人が働きたい限り働ける。
Q 毎年の入社希望者は?
A 毎年15名ぐらいが入れ替わる。障害が進行すれば40歳代で体力が低下してやめる人もいる。自信をつけて転職する人もいる。一人の募集に対して3~8人の応募がある。
Q 工場内のラインに「計画実績進度」の電光掲示板があったが?
A 体調などで一人ひとり生産性と作業速度が異なる。一般の工場は作業員が工程を管理するが、ここは表示された数値を見て明らかに早いとか遅い場合は機械や体調に不調があっても作業を続けているのではないか、無理して働いているのではないか。異常を感じたスタッフがその場所へ行って声を掛けたり体調を確認したりする。作業スピードを1時間当たり100と設定した場合、30分で45と表示されるとマイナス5で遅い、60ならプラス10で早い、と言うことになる。
Q 数値設定の根拠は?
A ライン作業ならラインの進度を設定する。一人作業の場合はレンティング検査(注)をして本人のスピード、正確性、注意力などを総合的に考慮して設定する。
Q A型事業所の平均勤続年数は?
A 14~15年。30年以上の人もいる。
Q 新しい治具の開発はどのように?
A 作業員に提案してもらう。道具や機械の設置場所を変える、機械の機能改善や新機械のアイディアなどを出してもらう。せっかく新しいものを作っても、現場に投入したら提案者の意図と違う場合もある。
Q 急に体調が崩れる場合もあると思うが人員のやりくりは?
A 障害者が圧倒的多数なので障害者同士で互いにカバーできるように、日頃から2つのラインを担当できるようにしている。
Q 給料は?
A 障害によって給料が変わることはない。A型事業所は労働法が適用されて給料は周辺企業の健常者と同水準。B型事業所は工賃、一般的な水準の2~3倍である。
Q 配置転換はあるのか?
A 本人の希望で変わる場合もある。
 
(注)3エス運動
 「整理」「整頓」「清掃」のそれぞれ頭文字をとった「3エス」の徹底が3エス運動。4時間以内に使う道具や部品などは身の回りに置く、急がないものは別の場所に、不要なものは捨てる。必要なものと不要なものが作業現場で混在していると、必要なものを探すのに時間がかかる。整理を徹底して必要なものは6秒以内に探し出す。
(注)レンティング検査
 穴に30本のピンを差し込む時間を測定する(単純レンティング)、5本のビスとスプリングワッシャーをセットにして締め付ける時間を測定する(複合レンティング)。40歳を過ぎると能力に個人差が出てくるので個人データをとって作業進度設定の参考にする。
特定非営利活動法人香川人権研究所
〒763-0092
香川県丸亀市川西町南715-1
TEL.0877-58-6868
FAX.0877-28-1011
TOPへ戻る