2019年6月
人権マガジン
6月はハンセン病啓発月間
初の本格的退所者実態調査
話すことができず苦しむ
「親戚の縁談に差し障る」「知られると村八分にあう」ー。初の本格的なハンセン病回復者(施設退所者)の全国実態調査で語られた心の叫びです。調査は社会福祉法人「ふれあい福祉会」が2016年に実施し、155人の方が回答しました。調査結果は2018年に「ハンセン病療養所退所者実態調査報告書」(写真)としてまとめられています。
退所者の現状について、報告書は「らい予防法の廃止、国家賠償請求訴訟での勝訴、マスメディアによる様々な報道、国による対処支援策の充実…といった動きの中で、ハンセン病に対する社会全体の理解は進んできたように映るが、悲惨な体験を重ねて来た退所者たちは今なお閉ざした心を容易に開けずにいるようだ」(163ページ)としています。
調査では24人の方が聞き取りに応じ、筆舌に堪えない厳しい経験を語っています。
■隔離政策下での実態(主なもの・同報告書から抜粋)
▼「妹は私がハンセン病だと夫に知られたことで離婚こそしなかったが人の目に触れないところでたたかれたり暴言をいわれた」(70代・男性)▼「病気がばれてはいけないという恐怖心、精神的な不安をいつも抱えていた」(80代・女性)▼「療養所の先生や看護師に子どもは作らない方がよいといわれていた」(70代・女性)▼「知られたらおしまいと思い、転々とした」(60代・男性)▼「人に話すことができなくて苦しかった」(70代・男性) |
現在、困っていることは将来への不安、差別や偏見などが三分の一以上を占めています。
■困っていること(上位4項目)
1 重度の障害を持つようになったらどうするか | 34.8% |
2 在宅生活が難しくなった時の居場所 | 34.8% |
3 差別や偏見がある | 34.2% |
4 ハンセン病を明かして医療が受けづらい | 23.9% |
5 ハンセン病を明かして介護を受けづらい | 19.4% |
報告書は「本件調査結果の随所から浮かび上がるのは、ハンセン病療養所からの退所者のほとんどが既往歴をひた隠しにし、極度に発覚を恐れ、脅えながら暮らしている現実である」として、今後の主な課題を提言しています。
■今後の課題
1 ハンセン病に対する総合的な啓発活動の充実、推進
「事実を知れば、人は相手に優しくなる」
2 医療従事者への研修を充実
一般医療機関で病歴をいったとたんに看護師が悲鳴を上げた、医師が姿を消した(事例)
3 自治体や施設など福祉担当職員への教育・啓発
4 一般医院で退所者が安心して受診できる環境整備
5 退所者が多い東京、沖縄などに支援センター設置
6 退所者給与金の広報強化、手続きの際には退所者の秘密保護を徹底
郵送される書類から病歴を知られるのを恐れて請求していない人もいる
知らずに避けていませんか
「遺伝病ではありません。感染力は非常に弱く、感染してもほとんど発病の可能性はありません」と香川県は正しい理解を呼び掛けています。(『ハンセン病の正しい知識と正しい理解を』香川県)。ハンセン病はらい菌による感染症で、末梢神経がおかされる病気です。視神経を侵されると視力を失い、運動神経を侵されると手足が不自由になり、感覚神経を侵されると温度を感じなくなってやけどや凍傷を負います。「不治の病」と言われましたが今は薬(写真)で簡単に完治します。国立感染症研究所によると、成人は日常生活で感染することはなく、感染しても発症は非常にまれです。明治以来、施設職員や医師に発症はありません。インドやブラジルなど世界には約21万人の新規患者がいますが、日本は毎年0か1で感染源になる人もいません。
ハンセン病の他にもHIVなど、感染症を正しく理解していない人によって偏見や差別がみられ、そのために苦しんでいる人がいます。あなたの近くにもいませんか。