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2018年4月

人権マガジン

2017年度「人権研修ツアー」報告(その3)

 香川人権研究所のフィールドワーク第12回人権研修ツアー(2017年9月7~8日)でのヘイトスピーチや多文化共生について講演していただいた文(ムン)さん(多民族共生人権教育センター)の講演要旨を連載します。今回で終了です。

新コリアンタウンの賑わい

ブームでなく文化として定着

 従来からここで商売をしてきた人たちの中には「さびれてきたので駅周辺に移動しよう」という人もいたが、「残って頑張ろう」という人もいた。
 ソウルオリンピックと韓流ブームに乗って商店街の独自色を出す「生野コリアンタウン」の愛称が成功した。夏休みなど長期休暇や休日になると、大勢の人でごった返している。韓流ブームは終わったように見えるが文化として定着している。毎週末にはここでしか見られないもの、食べられないもの、買えないものを求めて日本各地からたくさんの人が訪れる。

多民族共生人権教育センター

 1970年代に民族差別撤廃運動が全国で盛り上がり、「民闘連」(「民族差別と闘う連絡協議会」)ができた。在日コリアンが大手企業の就職差別事件に取り組んだのをきっかけに、公営住宅の入居条件から日本国籍をなくす運動、児童手当の国籍条件を撤廃する運動、私立学校の入学試験受験条件から日本国籍をなくす運動など、国籍によって日本で生まれ育った在日コリアン(韓国籍、朝鮮籍)を排除する民族差別をなくす運動が進んだ。
 多民族共生人権教育センター(写真)は民闘連運動の流れを引き継いでいる。大阪で2013年4月、ヘイトスピーチ問題が起きた。私がここへ転職して真っ先に取り組んだのは、行政にヘイトスピーチ対策をとらせる行政闘争だった。その結果、2016年1月に国よりも先に大阪市ヘイトスピーチ対策条例ができた。このセンターは市民運動もするが啓発団体でもある。主に企業や教職員を対象にセミナー等を開催し、多民族共生の観点から啓発に努めている。

在日コリアンを対象とした介護保険事業

 センターは主に在日コリアンを対象とする介護保険事業所である。20世紀の終わりごろ、特に在日一世が高齢化して働けなくなった。日本人で仕事をしていたら厚生年金を受けられるが、就職差別が厳しかったので彼らは厚生年金がでる大規模事業所に就職するのは無理だった。本来なら国民年金法に基づく老齢年金がでるはずだが、国民年金の資格にも国籍条項があって在日コリアンは対象外だった。結果的に収入が途絶えてしまうので一世、二世たちは国に対して国民年金に代わるお金を支給することを求めて裁判を起こした。民闘連もサポートしたが最高裁で負けた。そのまま放っておけないので高齢者の生活サポートをこの地域で始めた。自立困難でご飯を作るのも困難な人たちに憩いの場を作り、昼食を提供した。現在のデイサービスを介護保険法ができる前から取り組んだ。2000年に介護保険法が施行されてからはこの取り組みが事業となった。このエリアには在日コリアンが多く、こういう介護保険事業所への期待が高かった。日本人もいるがメインは在日コリアンである。

三つの安心

 3階から上はグループホームや老人ホームで、70~80名の高齢者が生活しておられる。9割は朝鮮半島出身者。ここに来る理由は差別問題と関わりがある。在日一世や二世の高齢者が日本の老人ホームに入ると差別にあう。キムチを食べようとすると「なんでそんなものを食べるの、朝鮮人か」と言われる。人生最後の時間なのに。家族も安心して過ごしてほしいと願っている。ここなら韓国、朝鮮の高齢者ばかりで、スタッフも理解があって差別の心配がない。二つ目の理由は食事。年をとると子どものころに食べたおふくろの味が恋しくなる。ここはほとんどが二世、日本で生まれたが親が作る朝鮮式のご飯を食べて育った人は、やはり最後はふるさとの味。日本の施設では魚の煮つけも醤油とみりんと生姜の味付けだが、彼らは醤油とみりん、ニンニクと唐辛子で味付けした煮つけが食べたい。ここでは和食も洋食もあるが、週に何回かは必ず朝鮮、韓国の味付けのご飯が食べられる。普通の老人ホームでは焼肉は出ないがここではでる。自分の好きな食事が食べれるのが大きな特徴だ。
 三つめは言葉。二世は生まれながら日本語を話すので言葉の問題はない。日本語で意思疎通できる。だが1980年代以降、日本に来るようになったニューカマー(新渡人)と言われる人たちが高齢化している。普段は日本語だが、認知症になって日本語を忘れると朝鮮語しか話せなくなる。普通の日本の老人ホームでは言葉が通じず放っておかれる。着替えや食事など最低限の世話はしてくれるが、言葉が通じないので自分の気持ちを伝えられない。だがここなら韓国、朝鮮語を理解できるスタッフばかりなのできめ細かなケアが受けられる。本人も家族も安心できる。そういうことがあって在日コリアンをメインにした介護保険事業が成り立っている。

<焼肉(ホルモン)の名称>

1 カルビ(肋骨についている筋肉)  5 ハラミ(横隔膜の筋肉)
2 ツラミ(顔の頬肉)        6 タ ン(舌の付け根)
3 テッチャン(大腸)        7 コテッチャン(小腸)
4 ハ ツ(心臓)           8 ミ ノ(胃)

参加者の感想 焼肉 多文化共生のシンボル

 一番刺激を受けたのはコリアンタウンでの話。特に焼肉の話が印象に残った。朝鮮の方が日本人の食べなかった内臓(ホルモン)を日本の鍋文化をヒントにして日本人の間に浸透させた。大げさに言うと、多文化共生のシンボルだと思った焼肉を食べるときはこのことを思い出しながら食べたい。
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