2017年8月

人権ヒストリー

田原春次の国会質問
高松結婚差別裁判 政府が謝罪
香川県では、8 月の同和問題啓発強調月間では講演会やテレビCMなど、様々な啓発活動が展開されている。
同和問題の本で必ず取り上げられる高松結婚差別裁判。1933 年、高松地方裁判所は「結婚で部落出身を隠すことは犯罪になる」として、部落青年二人に結婚誘拐罪を適用して収監した。判決撤回を求め、高松結婚差別糾弾闘争は水平社史上最大の闘いとなった。警察や裁判所の関係者らが処分され、暮れには青年二人が仮出獄した。しかし、年末の警察による弾圧(県内水平社幹部が次々と逮捕拘束されたいわゆる「高松事件」)をきっかけに、翌1934 年には県内すべての水平社支部が解散して融和団体へ移行しも、県水平社は解消した。日本社会が日中戦争から太平洋戦争へと進む中で大政翼賛会の猛威が吹き荒れ、水平社は消滅した。高松結婚差別裁判は誰もが語らなくなった。
1946 年7 月16 日、衆議院帝国憲法改正委員会で、田原春次議員(写真)は憲法草案の第13 条(現14 条)について質問した。この質疑の中で政府は、1933 年の高松地方裁判所によるいわゆる「高松結婚差別裁判」について謝罪した
(以下「」内は衆議院帝国憲法法案改正委員会会議録からの引用)。
○田原春治委員「社会的身分又は門地による差別を受けないという場合は社会的優位な身分もしくは優位なる門地、例えば士族、あるいは華族の意味が濃い。私がたずねたいのはいわゆる被圧迫部落、具体的には全国水平社の三百万人の問題である」

○金森憲法改正担当国務大臣「第13 条の作用は、特に今ご指摘になりましたような場面に於いて、最も有効なる働きをするものであろうと考えております」
 憲法改正草案13 条には《全て国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により差別をうけない》とあった。もともと傍線部分の原案は《社会的地位》と書いてあった。「これでは旧貴族などの特権階級を保護することになるのでは」と水平社関係者などが危惧していた。ここで田原氏は高松結婚裁判を取り上げた。
 
○田原委員「高松地方裁判所の検事局に被圧迫部落に対する侮辱事件を提訴しましたときに、部落民を部落民と言うのが何が差別になるかという検事の言い方から偶々それが全国に広がりまして、遂に全国の水平社同人が司法省に全国から陳情に行くという大事件になったことが数年前にあるのであります」
 
○木村司法大臣「高松裁判所でそのようなことがあったことは知っております。私も当時おおいにこれはいかんと考えた一人であります。裁判所において、若い者が左様な考え方をしておったという事実に対して、私は司法大臣として誠に申し訳ない。以後こういうような事が決してないようにいたします」
政府は差別裁判を認め謝罪したが判決が撤回されたわけではない。
 
○田原委員「『差別を受けない』と書いてあるけれども・・・・法律的なこの様な差別事件の起こった場合に如何なる処置をするつもりでおられるか、司法当局のご用意を聴いておきたいと思います」
 
○木村司法大臣「只今の刑法でも部落差別は侮辱罪として犯罪を構成するものと考えておりますが、将来差別のない日本の同胞として取り扱う事として、政府としては、将来十二分の処置をとりたいと思っております」
 
憲法に《差別を受けない》と書いていても、それだけで差別を止めることにはならないのではないか。1871 年の太政官布告(いわゆる「解放令」)によって旧身分が解消されたにも関わらず高松結婚差別裁判が起きた。差別行為が処罰されないから社会の差別への問題意識が希薄になるのではないか、田原はそのことを懸念していたのではないか。部落差別の解消を理念やことばだけに終わらせず、明確に部落差別行為を法律で規制する必要性をただしたのではないか。同様の懸念は同和対策審議会答申2 もみられる(注)。

政府が「十二分の法的処置をとる」と答えて70 年が過ぎた2016 年12 月、部落差別解消推進法が施行された。同法は「部落差別は許されないもの」として国や地方公共団体などに部落差別解消の取り組みの責務を定めている。同法の趣旨が早急に具体化されることが求められている。だが同法は部落差別を法的に禁じたものでも被害者の救済措置を定めたものでもない。部落差別の法規制はいまだ実現しておらず、政府には一日も早く約束を果してもらいたい。
(注)同和対策審議会答申(1965年)
もし、国家や公共団体が差別的な法令を制定し、あるいは差別的な行政措置をとった場合には、憲法14条違反として直ちに無効とされるであろう。しかし、私人については差別的行為があっても、労働基準法や、その他の労働関係法のように特別の規定のある場合を除いては「差別」それ自体を直接規制することができない。
「差別事象」に対する法的規制が不十分であるため、「差別」の実態およびそれが被差別者に与える影響についての一般の認識も稀薄となり、「差別」それ自体が重大な社会悪であることを看過する結果となっている。
田原春次 プロフィール

1900(明治33)年福岡県生まれ。早稲田大学卒業後、アメリカミズーリ州立大学に留学。邦字新聞「コロラド新聞」の記者となる。帰国後朝日新聞記者となる。30 年夏、早稲田大学の先輩・浅沼稲次郎に誘われて農民運動に入る。その後水平社福岡県委員長、衆議院議員となる。33 年8 月26 日、松本治一郎らと来県し、高松結婚差別裁判糾弾香川見集会で演説している。
 
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