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香川の同和問題

推進員制度40年にあたって
問題解決を意識した取り組みを

 推進員制度の始まり

 1975年、「部落地名総鑑事件」が発覚した。全国の部落名・所在地などを記載した『人事極秘』と書かれた差別図書などを企業が購入し、採用から同和関係者を排除していた。有名企業も購入しており、企業の差別的体質が問われた。同和問題の解決は国民的課題であることから、企業の社会的責任として採用差別をなくす取組が始まった。1977年、厚生省は雇用主に同和問題の啓発・指導を強化するため、一定規模以上の事業所に推進員(「企業内同和問題研修推進員」)を設置し、適性に基づく公正採用選考のシステム確立を進めることになった。1996年には人権啓発事業として再構成され、「公正採用選考人権啓発推進員」と改称された。


 ある社長の反省

 差別図書『日本の部落』を購入していたA氏は、「能力主義としながらそれと無関係な家庭環境で選考していた」と次のような手記を書いている(抜粋)。
 同和問題に対する再三にわたる行政指導を受け、その知識は持っておりました。しかし、これは単なる知識のみであって、企業の姿勢については全く正すことがなかったばかりか、逆に同和問題に対して避けて通るという・・・実態でありました。・・・職員の採用に際して、身元調査の廃止、戸籍謄本の廃止、社用履歴書の廃止をいたしましたが、これらは全て受身的に行ったもので・・・面接で補っておりました・・・。図書購入・・・が同和地区住民の排除、人権の侵害という意識は薄・・・かったのも事実であります。しかしながら、運動団体による「確認会」や「糾弾会」を経ていくなかで、差別されることの意味や心情が、徐々に理解できるようになってきました。上記反省を踏まえ、社内点検を進め、下記事項を改めることにいたしました。・・・採用にあたって能力主義としながらも、これと無関係な「家庭環境」を選考の重要基準の一つにし・・・良好な家庭環境―素直な性格、温厚な人物―(成長性が期待できる人物・入社後、問題を起こさない人物)―という予断と偏見を持っていた・・・。これらの基準は・・・差別であり、今後・・・能力や適性などと関係のない「家庭環境」を選考基準としないことにしました。


 コンプライアンス

 「差別はしていない」「みんなやっている」と身元調査を「慣習」のように言う声がある。戦後の憲法は法の下の平等と基本的人権の尊重、差別の禁止をうたっている。「職業選択の自由」は憲法が保障する基本的人権の一つであり、同和関係という理由だけで採用から排除することは現代では憲法に触れる。職業安定法(第5条指針1999年)では本籍や出生地など、社会的差別の原因となる恐れがある情報の収集が原則禁止されている。また、香川県条例(「香川県部落差別事象の発生の防止に関する条例」)では、就職や結婚の際、特定個人が同和関係者かどうかの身元調査を禁止している。

関係法令等
【憲法】「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(14条)
【職業安定法 第5条指針】「職業紹介事業者等は、その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならない。ただし、特別な職業上の必要性が存在すること、その他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでない。
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、ロ 思想及び信条、ハ 労働組合への加入状況
【香川県部落差別事象の発生の防止に関する条例】「県民及び事業者は、自ら調査を行い、又は調査を依頼し、若しくは受託する行為、調査に係る資料を提供する行為その他の結婚及び就職に際しての部落差別事象の発生につながるおそれのある行為をしてはならない。」(第4条 第2項)

 担当者任せでなく企業組織として

 多くの企業が公正採用を実施しているが、高校生から「採用面接で差別につながる恐れのある質問を受けた」との報告は後を絶たない。2015年には県内企業28社が本籍や家族の職業・住居の間取り・道順などを聞いたことが確認されている(香川県人権・同和教育進路促進委員会「2015年度会報」)。企業トップが質問する場合が多い。企業トップ7人のうち2人が就職や結婚で身元調査を「必要だ」「みんなやっている」と肯定し、その際は同和関係を重視するとの調査結果がある(「宇多津町人権問題意識調査報告書」2015年・他自治体も同傾向)。身元調査は適性でなく家庭環境などを基準にし、差別選考につながる恐れが強いために企業トップへの周知徹底が急がれる。
 推進員制度は今年40年目の節目を迎え、40年間の成果と今後の課題について総括が必要である。昨年部落差別解消法が施行された。同法は部落差別の存在を許されないものとし、国及び地方公共団体に部落差別解消推進の責務を課している(第一条)。この観点に立つなら、行政指導は「推進員制度確立」のレベルから「採用差別の解消」へ移行すべきであろう。推進員未設置事業所や名前だけ推進員の解消、推進員研修会の参加率向上、行政担当職員の資質向上、適性を引き出す質問マニュアルの整備など、それぞれに目標数値を設定するなど部落差別の解消という目的を鮮明に意識した実効性のある取組を求めたい。
 推進員制度の対象は現在、女性、障害者、在日外国人などに広がっている。公正採用システムの確立を推進員だけに任せるのでなく、トップが率先して社内組織全体で、またグループ企業も含めた組織的な取組が求められている。トップがリーダーシップを発揮すると取組の効果は大きい。


 人権尊重と企業メリット

 上述のA氏は、公正採用や人権尊重の取組を「行政機関にやらされている」と思い込んでいたようだ。行政指導や運動団体の指摘はきっかけである。公正採用が進んでいる企業では実力のある人材が確保され、従業員は適性に応じて能力を発揮し、だれもが安心して働きやすい職場では生産性が上がる。また、顧客や株主、周辺住民などステークホルダーからの評判もよくなる。

面接での不適切な質問 報告件数
(香川県人権・同和教育進路促進委員会「2015年度会報」)
質問内容
県内(社)
県外(社)
1 本籍
2 家族の職業など身元調査 14
3 家族の地位や学歴、収入
4 住居の間取り、道順など
5 尊敬する人物
6 生活環境に関する作文
7 その他
合 計 28

結婚や就職での身元調査 企業トップの意識
(「宇多津町人権問題意識調査報告書」2015年)
必要ない
必要だ
みんなやっている
わからない
3人
1人
1人
2人
否定
積極的肯定
消極的肯定
不明
7人
肯定する人が重視する項目
同和地区出身者
家族の社会的身分
必要だ
重 視
重 視
みんなやっている
重 視
重 視

 

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